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和歌山市の心療内科・精神科クリニック。吉田メンタルクリニックです。

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病名のおはなし

自閉性障害 (Autistic Disorder)


【疾患概念】

L. Kanner (1943) 現在でも基本的にこの考え方を用います

 知的発達の障害がないのに, 幼児期に母親をはじめ周囲の人間と接触を保ちえない状態を早期幼児自閉症とよび, 器質脳疾患や精神遅滞による二次的自閉状態から区別しました.
当初これを精神分裂病の最年少出現型と考え. 症状として以下のものをあげています.

1. 人間関係樹立の困難:自分以外の人間, 例えば母親に対しても他の人に対しても, 感情的関係を確立することができない.
患児は他人と視線が合わない状態であり, 抱きかかえてもむこうから抱きついたりあるいは抱かれるのを嫌がるという反応がなく, 石か鉛の人形を抱いているような感じがする.
人みしりをせず, 他の子どもや大人がいても無関心で, ひとりで遊んでいる.

2. 同一性保持の欲求が異常に強く, 変化に対する抵抗が強い. たとえば日常生活では, 奇妙な常同運動パターン, 儀礼的行動などを反復することが多く,
これを静止しようとすると激しい怒りや強い不安を示して抵抗する.
遊びのときにも玩具よりは空き缶その他一見するとつまらない物に執着して, いつまでもそれで同じ遊びを反復する.
また, 列車の時刻表, 電話番号, 他人の誕生日などに興味を持ち, 驚くほどの記憶力を示すこともある. しかし, 抽象的, 象徴的思考や空想遊びを行う能力は劣っている.

3. 言語発達の障害:コミュニケーションの目的で言語を用いようとしないこと.
言語の発達が欠如するか遅延し, 言語が現れてもコミュニケーション目的に使用されなかったり, 使用が不適切だったりする.
例えば, 相手の言葉をオーム返しに繰り返す反響言語があり, また人称代名詞の反転, 失文法などがみられる.

4. 物的なもの, ことに回転する物体に対する異常な興味

5. 知能は高度の障害を示すものから正常またはそれ以上のものまである.



M. Rutter (1978)
1. 生後30カ月未満の発症

2. 知的レベルと一致しない社会性発達の障害

3. 知的レベルと一致しない言語発達の遅滞と逸脱

4. 常同的遊びのパターン, 異常な没頭, 変化に対する抵抗などによって示される同一性への固執



全米自閉症協会の定義 (E. R. Ritovo & B. J. Freeman : National Society for Autistic Children definition of the syndrome of autism. J. Autism Childhood Schizophrenia, 8; 162, 1978)

1. 発達の進度と連続性の障害

2. 感覚刺激への反応の障害

3. 言語, 言語認知, 非言語性コミュニケーションの障害

4. 人物, できごと, 事物との適切な関わりの障害



DSM-W の定義では全般的発達障害の一型として捉えられます

A. (1),(2),(3)から6つ以上, うち(1)から2つ, (2),(3)から最低1つの症状があること.

(1) 対人的相互関係における質的な障害

(a) eye to eye contact, 顔の表情, 体の姿勢, 身振りなど対人的相互反応を調節する多彩な非言語性行動の使用障害

(b) 発達の水準に相応した仲間関係を作れない

(c) 楽しみ, 興味, 成し遂げたものを他人と共有することを自発的に求めない

(d) 対人的または情緒的相互性の欠如

(2) 意志伝達の質的障害

(a) 話言葉の発達遅延(言葉以外の伝達手段も使おうとしない)

(b) 他人と会話を開始し, 継続しようとする能力の障害

(c) 常同的で反復的な言語の使用または独特な言語

(d) 変化に富んだ自発的なごっこ遊びや社会性を持った物まね遊びの欠如

(3) 行動, 興味,活動の限定され, 反復的で常同的な様式

(a) 強度または対象において異常なほど常同的で限定された興味に熱中すること

(b) 特定の機能的でない習慣や儀式に固執する

(c) 常同的で反復的な奇妙な運動

(d) 物体の一部に持続的に熱中する

  B. 3歳以前に始まる対人的相互作用, 対人的意志伝達手段としての言語発達, 象徴的または想像的遊びの遅れや異常

C. 生後2年間正常発達を遂げたケース(小児期崩壊性障害), 精神分裂病圏を除く



【中心症状は認知障害】

認知障害とはモノの本質を把握できない病態であり抽象化能力障害と言い替えてもよいと言えます. 対人関係障害もこの延長上の症状で, 「母親」とはどういうものかわからないために母親側に「子どもに対して共感を覚えない」という感情を抱かせることになります.
「ともだち」という概念が不足しているために独り遊びが目立つので. これが情緒障害児とよばれる所以でしょう.
ただし世話をしてくれる(快楽を与えてくれる)相手(母親はこの代表である)は認識できるため, その人間には近寄っていきます.
表面上甘えているようにみえるのですが, 決して正常情緒発達の一段階にあるのではなく. 言葉と物体の対応が難しく, 加減計算ができないのも抽象化能力が不足しているからと言えます.
最も良い例は 1+1 を 11 とする子どもです. 空間, 位置覚に障害があると, バランスが悪い(閉眼でまっすぐ歩けない, きれいな字が書けない)という症状を呈します.

子どもが描いた(模写ではない)絵は総合的にバランスを評価するための重要な資料となります. 自閉症の疑いをもって子どもを診察する際に, 母親に対して「目線が合いますか(合いましたか)」と質問します.それは対人関係能力と同時に会話時の興味心集中力をチェックしているのです.
自閉症児は外見上何事にも無関心にみえるのですが, 興味心の総エネルギーが不足しているからではなく, 集中の方向を自分で決定することが難しいことが原因です.
外界からの刺激に対して過剰に反応する (hypersensitivity to the stimulation) 自閉症児が多いのですが, この現象も集中の方向を見失っているからです.
健常人では ある刺激に集中する際に, 周辺刺激を感覚的に抑制する一種の反射系(会話の際に部屋の外の雑音は聞こえにくくなる)をもつのですが, 自閉症児ではこの能力に異常があるという実験データはこの仮説の傍証になります.



【発生頻度】
M. D. Wilson (1964)
London 約1万人に1人

V. Lotter (1978)
Middlesex 州在住の8〜10歳の全児童78,000人中32人(0.41千対)

M. Rutter (1967)
Aberdeen で9,000人中4人

D. A. Treffert (1967)
Wisconsin 州で1万人に4.3人

東京都立教育研究所
1万人に4.2人



【成 因】

器質論か心因論か, 母性剥奪症候群との関連

自閉症は認知障害が存在し, 症状が似ていても母性剥奪症候群とは異なる

P. Bergman , S. K. Escalona (1949)
母子関係の在り方に問題がある

E. Schoper
自閉症児には遠隔受容器の回避, 近接受容器の優先が認められる. これから seneory deprivation つまり脳幹網様体の抑制が存在する.



【予 後】

L. Kanner (1956)
4〜5 歳児の言語機能の障害は自閉性の重症度の指標となる. 1/3 は社会適応可能, 2/3 は施設収容

Maudsley
予後を占うには
1. 5歳時の言語発達レベル

2. IQ テストに対する反応

3. 音に対する反応

4. 全体的な異常性の重症度

Lotter
自閉症の診断後, 8年で 20/32 が施設内に収容



【治療, 療育】

原則として薬物療法は行いません.
ただし, 社会適応を改善するためのトレーニングを著しく障害するような副次症状(常同性, 自傷行為, 衝動行為)が認められる場合は抗精神病薬を使用することがあります.
多動性は小学校高学年で減少する症例が多く. 療育は行動療法を主体に行います.
6歳までは感覚統合療法が有効な症例も存在します.



【感覚統合療法】

自閉症の基本的障害は感覚障害であるという理論から出発した療法

Delacato "The Ultimate Stranger : The Autistic Child", 1974
障害の質を a. 鈍すぎる感覚, b. 鋭すぎる感覚, c. 混乱した感覚 にわけ, これを平衡感覚, 皮膚感覚, 味覚, 嗅覚, 聴覚, 視覚に関してチェックする.

感覚回路についての一般的原則

a. 鈍すぎる感覚の場合
1. 周囲の刺激に関する感受性が弱いため危険, 有毒物に対して無防備. 事故に注意

2. 各種刺激を与える

3. 強い刺激から弱い刺激に

4. 刺激に対する慣れを防止

5. 単一刺激を与える

6. 刺激源を言葉で提示する

b. 鋭すぎる感覚の場合

1. 強い刺激を環境から取り除く

2. 避けられない場合(環境騒音など)刺激からの逃げ場を用意する

3. 子どもの気にいった刺激を子ども自身に代わって大人が用意する

4. 弱い刺激から強い刺激に

5. 単一刺激を与える

6. 刺激源を言葉で提示する

c. 混乱した感覚の場合

1. 常時持続している刺激は身辺から取り除く

2. 刺激を与えながら, その刺激が何か, どこからきた刺激かを言葉で提示する

3. 強くて, 抵抗の少ない刺激から始める

4. 最終的には外部からの異なる刺激を弁別できるようにする



【常同症分類】

1. 意識レベル低下時に出現

2. 習慣性

a. 身体運動 b. 対象の取り扱い c. 生活習慣的行動のパターン化

3. 情動性(不安感を伴う)

a. 状況との conflict から b. 内面から出るエネルギーによる



【常同行為に対するトレーニング】

パターン1

1. 両足を揃えて直立, 両腕前方伸展, 指の回扇 〜 20秒, 6歳以上ではこれに閉眼, 舌突出動作を加える

2. 両腕を前方に伸展させたままトレーナーの腕に力を抜いて乗せる

3. 閉眼, 開口

パターン2 : Hand Control 法 (Arzin et al. 1973)
以下の操作をこどもの後ろに立って, 手助けを行いながらすすめる

1. 手をぶらりと下げてまっすぐ伸ばす

2. その手を前にまっすぐ伸ばす

3. 横に伸ばす

4. 上に挙げる

各々の姿勢を30秒維持し, 姿勢を変えるたびにトレーナーは口頭で指示を与えながら手助けする. その他の励ましは行わない. 1 〜 4のサイクルを立位のまま10サイクル, 計20分

Modification
2.の姿勢を除く. 1.の姿勢をとらせる時, 両手を後ろに回して握りあわせる. インターバルを10秒に, 立位を座位に変更. 終了時の姿勢を1.にし, その姿勢は30 〜 60秒と今までの姿勢よりも長くとらせる.



【興奮抑制トレーニング】

自傷行為に対しても有効

興奮しすぎであることを口頭で伝え, ベッドに2時間寝かせて緊張をとる.

トレーナーはベッドの枕元に立ち, こどもがベッドから脱出しないように管理する.

Modification
こどもをベッドに寝かせるだけでなく, 手を伸展させ, 足の横に置かせる(自分の頭を叩くのと相反する姿勢).
この姿勢を維持するために言葉による教示と手による愛護的接触を行うが, その他の接触は一切持たない.
この姿勢を10分間維持する. 手を頭の方にもっていけば, さらに10分間同一姿勢をとらせる



【Positive reinforcement for outward-directed activities】
内面に向いた行動 : 視線あわせ, 教示されたものを見る, 教示に従って椅子に座ったり椅子から立ったりする, 一緒に歩いたりドラムを叩く, キャッチボール, 静かに座る

外面に向いた行動 : ジグソーパズル, 教育用ゲーム, 排泄訓練, 着衣, 洗顔, 言葉の認識

行動を外面に向ける因子 : 言葉による賞賛, 背中叩き, キャンディ ・ プリン ・ コーヒー ・ ジュースなどの菓子(内面に向う傾向が多い子どもには最も強い強化因子)

参考文献 : 精神薄弱児通園施設つくも幼児教室 : 「自閉を開く」 母子関係の確立と感覚統合訓練. 風媒社, 名古屋 ,1980



 日常生活習慣の自立を含む社会適応能力の確立以前に教科教育を行うことは,自閉症児の将来にとって有効とは思いにくく. トレーニングの際に訓練者の態度を一貫させることが必須で, 家庭と療育場所との緊密な連絡が要求されます.



【抑制するべき異常行動, しつけの方法】

a. 興奮 b. 常同行為 c. 自傷行為 d. 集中力の発散

アメとムチが原則. 抑制するべき行動が出現した場合, いつでも誰でも同じ態度で抑制することが必要です.
情報入力する場合, 一度に異なった刺激を入力しないようにします
(認知障害があるから混乱する).
また, こだわりを利用して入力につなげる努力をしていくようにしていきます.