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和歌山市の心療内科・精神科クリニック。吉田メンタルクリニックです。

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〒641 0013 和歌山市 内原915

病名のおはなし

うつ病(Depression)・うつ状態


【以前の定義】

躁うつ病(双極性感情障害)の一型で, 周期的にうつ状態を繰り返すが, 
間歇期には完全に正常な状態に復するもの. 
経過観察中, 単極性うつ病の患者でもわずかな躁エピソードが認められるはず 
とする学説もあった.

有病率
0.2(千対) 発症時期 : 精神分裂病より遅く20歳代が最も多い

病 因
不明, 遺伝負荷あり(精神分裂病より大).
肥満体型, 循環気質, 執着性格(下田 による几帳面さ, 熱中性),
メランコリー型性格(Tellenbach, H. 〜 秩序に固執, 他者のための存在, 他者との共生),
脳内アミン代謝系の欠陥

症 状
抑うつ気分 〜 内因性では生命感情障害が出現する.
自己を過小評価, 劣等感, 悲観的, 自責的, 絶望的
思考障害 〜 思考制止(観念が思いうかばない, 思考のテンポ遅延, 返答が遅い),
微小念慮(自己の過小評価, 罪業妄想, 貧困妄想, 心気妄想)
意欲, 行動障害〜精神運動制止, morning fatigue, うつ病性昏迷 身体症状 〜 不眠,
食欲低下, 自律神経機能障害, masked depression



「うつ病」は器質的障害と考えられ, ストレス要因や性格の弱さによる機能的(心因性)うつ状態とは異なる病態とされていた.
ところが1960年代から70年代にかけて増加し始めた精神科外来患者のなかに
うつ状態, なかでも軽症のそれが相当数を占めるようになった.
ここで両者を区別する evidence がないことより, 操作的診断基準が採択されるようになった.
成因の如何は問われず, うつの重症度によって分類されることとなる.



【現在の操作的診断基準】
大うつ病エピソードの DSM-IV 基準 1
基本基準  2週間の継続期間中に, 以下の症状のうち, 5つ以上が存在する必要がある. またこれらの症状が本来の機能を果す状態からの変化を表示する必要がある
:症状の少なくとも1つが,
(1)「憂鬱な気分である」か (2)「興味や楽しみを失う」 のどちらかである
(一般的な病状, または気分がそぐわないような妄想や幻覚などによる明らかな症状は含まない).

(1) 主観的な報告(例:悲しみか空しさを感じる), または他人による観察(例:泣いているように見える)のどちらかで指摘されるように,
ほとんど1日中, そしてほぼ毎日, 憂鬱な気分である.

(2) すべて, またはほぼすべての行動に, ほとんど1日中, そしてほぼ毎日,
興味や楽しみを失った状態が際立つ(主観的な報告, または他人による観察のどちらかに指摘されるように)

(3) ダイエットが原因ではない体重の減少, または体重の増加
(例:1カ月間に体重の5%以上の変化)が際立って見られ,
食欲の減退または増加がほぼ毎日ある.

(4) 不眠症または過度の睡眠が, ほぼ毎日ある.

(5) 精神運動的興奮または遅滞が, ほぼ毎日ある.
(客観的な落ち着きのなさ, または動きのにぶりがあるが, 主観的な感情はほとんどない).

(6) ほぼ毎日, 疲労または元気がなくなる.

(7) 自分が無価値な感情, または過剰か不適切な罪悪感(妄想の可能性もある)が
ほぼ毎日ある(単なる自己非難, または病気である事に対する罪悪感ではなく)

(8) 考えたり集中したりする能力の減少, または優柔不断が, ほぼ毎日ある.
(主観的な報告, または他人による観察のどちらかに指摘されるように)

(9) 死についての頻繁な思考(死の恐怖感のみでなく),
特別な計画を持たない自殺の頻繁な観念化, または自殺未遂,
あるいは自殺を実行する特定の計画を考える.
これらの症状が, 臨床的に重大な苦痛の原因となるか, 社会的, 職業的, またはその他の重要な分野で役割を満足させられない原因となる.
これらの症状は, 物質による(例:薬物乱用, 薬物治療)直接的な生理学上の影響によるものではなく, 一般的な病状(例:甲状腺機能不全症)によるものでもない.
これらの症状を死別(すなわち愛する人を失った結果)が原因としない方が良い.
これらの症状は, それが2カ月以上持続するか,
または顕著な機能的減損, 無価値な感情を伴なう病的に過激な先入観,
自殺の観念化, 精神病の症状, 精神運動的遅滞によって識別される.

296.2 Major Depressive Disorders, Single Episode
296.3 Major Depressive Disorders, Recurrent



ただし, 以下のような反論が存在することも事実である.

「うつ」は内因, 心因, 外因とさまざまな成因によって生じ,
それに従って病像と経過も多様な疾患群である.
旧来の「うつ」診療はこれら成因による状態像の差異を分別して疾患診断に到達し,
それによって個々に応じた治療を行ってきたが, 成因を棚上げし,
結果的に成因的には特定度の低い, いわば‘ごった煮’の「状態像」とでも称すべき
大うつ病エピソードの特定を旨とするDSMの気分障害の分類以降, 「うつ」の診断ならびに治療には誤った単純化・平板化が生じた.  
(1)成因への考慮なき治療がありうるのか
(2)抑うつ反応はどこへ行ったのか
(3)身体疾患(脳器質性, 症状性, 薬剤性)に基づく抑うつ状態が見逃されないか 
という3つの疑問が残る.



 現に操作的診断基準でも以下のようなカテゴリーが存在する.
300.4 Dysthymic Disorder (気分変調性障害)

A. 抑うつ気分がほとんど一日中存在する日が多く, その期間は最低2年  

B. 抑うつの間, 以下のうち2つ以上の症状が存在する

食欲減退, または過食 (2) 不眠または過眠 (3) 気力の低下, または疲労 (4) 自尊心の低下 (5) 集中力低下, または決断困難 (6) 絶望感

D. 2年の期間中一度に2か月を越える無症状期間がない

大うつ病エピソードが存在しない

E. F. G. 他の障害あるいは物質, 身体疾患に起因するものではない

H. 症状は臨床的に著しい苦痛または社会的, 職業的, または他の重要な領域における機能障害を引き起こしている.

309.0 Adjustment Disorders with Depressive Feeling

A. 確定できるストレッサーに反応して3か月以内に情緒面または行動面の症状が出現  

B. ストレッサーに曝露されたとき予測されるものをはるかに越えた苦痛をおぼえ, 社会的機能の著しい障害

C, D. 他の障害が認められず, 死別反応でもない  

E. ストレッサーが消滅後6か月以上症状の継続をみない.



【治 療】

薬物治療
1) 三環系 (TCAs), 四環系

三環系:塩酸クロミプラミン(アナフラニール), 塩酸イミプラミン(トフラニール), 塩酸ロフェプラミン(アンプリット) , アモキサピン(アモキサン), 塩酸アミトリプチリン(トリプタノール)

四環系: 塩酸マプロチリン(ルジオミール), 塩酸ミアンセリン(テトラミド), マレイン酸セチプリン(テシプール)

四環系修飾:ミルタザピン(リフレックス)

三環系抗うつ剤はその分子構造に3つの環を持ち,
四環系抗うつ剤は三環系抗うつ剤にいくつかの環がつく.
三環系抗うつ剤は側鎖の窒素原子に2つあるいは1つのメチル基を持ち, 各々3級, 2級アミンと呼ばれる. 3級アミン三環系抗うつ剤処方が多い.  
3級アミン三環系抗うつ剤では鎮静, 起立性低血圧, 口渇, 便秘, かすみ目などの抗コリン作用性副作用が多い.
四環系抗うつ剤は抗うつ効果は三環系に劣るものの抗コリン作用性副作用が少なく, 高齢者にも使いやすい. 緑内障, 前立腺肥大症を持つ患者には原則使用禁忌である.
三環系抗うつ剤は鎮静の副作用がある一方, 症例によっては興奮を惹起する場合があるため, 夕食後は処方しない方が無難である.  
日本では過少投与により, 抗うつ効果が不十分になる症例がかなりある. 三環系, 四環系抗うつ剤共に効果の発現はかなり遅く, 初回投与後1〜2週間(時には1カ月)を経過してから効果を現す症例がある.

2) 非定型
スルピリド(ドグマチール)〜D2 antagonist で, 薬理学的には抗精神病薬に近い. 
日本でのみ, うつ状態に処方される. 1回50mgで消化性潰瘍, 100mgで抑うつ状態, 200mgで抗精神病薬として使用する.
高プロラクチン血症による生理不順, 乳汁分泌, 女性化乳房, 食欲増強が副作用. 
高齢者ではパーキンソン症状の出現をみることが多い. 
精神的作用が穏やかであり, 抗不安効果もあるため, クリニックでの処方頻度はトップ

トラゾドン(デジレル, レスリン)〜トリアゾロピリジン由来の抗うつ剤.
構造的には三環系, 四環系抗うつ剤と類似性がなく, アルプラゾラムと同様のトリアゾロ環構造を特徴とする.
中途覚醒の改善目的にも使用される. 抗コリン作動性の副作用はみられず, 鎮静, 起立性低血圧, めまい, 頭痛, 吐き気が主な副作用である.

3) セロトニン選択性再取り込み阻害薬 (SSRI)
現在のSSRIの構造には類似点はない.

フルボキサミン(デプロメール,ルボックス)
1日量50〜300mg. 副作用は吐き気が主なもの. 焦燥感, 食欲不振, 睡眠障害もありうる.  副作用の多くは, 服用2週間後消失する. 適応はうつ病, 強迫性障害

パロキセチン(パキシル)
phenylpiperadine 誘導体で, 強い選択的再取込み阻害作用を持つ.
重症のうつ病患者に対して, 三環系抗うつ剤と同程度の力価を持つ.
消化管症状(吐き気, 下痢, 便秘)が副作用である. 新たな不安を生じさせることはない.  適応はうつ病, パニック障害

エスシタロプラム(レクサプロ)

SSRI 日本での今後の方向性

アメリカでは「人生を変える薬」として宣伝され, 旧来の抗うつ薬はその任務を終えたように言われている.
しかし SSRIの抗うつ効果が従来のスタンダード薬に比べて勝っているわけではなく, 副作用が少ない点がメリットである.
そのため, これまで抗うつ薬処方をためらっていた内科医が処方を始めた
→ 爆発的に使われるという図式が描ける. 重症うつ病患者には未だに三環系抗うつ剤が第一選択薬である.
SSRI は神経症性うつ状態, 反応性うつ状態に使用されることになるであろう.
ここで問題になるのはこれらの疾患ではあくまでもカウンセリングが治療の本体で,
薬物療法は予備的あるいは二次的なものであるという認識が一般医に持てるか,
という点である.

4)SNRI
ミルナシプラン(トレドミン) フランスで開発された imipramine と同等の NE, 5-HT 再取込み阻害能を持ち, MAO阻害作用を示さない抗うつ薬. 男性尿路狭窄などの抗コリン作動性有害作用頻度は SSRI に比してやや高いが, 効果発現までの期間が短い. 意欲・ 行動低下にも有効

デュロキセチン(サインバルタ)

認知行動療法

抑うつ気分は, ものごとを negative に捉える認知の歪みから生じる. 認知がどのように歪んだのか分析し, 矯正した上で, 実際の行動を positive に変えようとする手法

電気ショック療法

薬物療法が奏効しない難治例では, 麻酔科で電気ショック療法が使用される. 
これとは異なるが, 遷延化したうつ症状が, 肉親の死などの強烈な精神的ショックによって改善することがある. 
ただし, すべての症例がショックによって改善するわけではなく, あくまで偶然の産物と捉えるべきであろう.



【補 遺】
USAの報告では最大20%のprevalence. 「病気」の頻度としては大きすぎる.

あなたの症状はDepression(うつ) か Anxiety(不安) か. 
不安を改善すれば自然に気分も改善することが多い. 
まず, ストレスからくる不安の対処を. 主観的・客観的な生命危機 → 防衛規制 → 不安, 抑うつ感情というのが一般的なうつ状態の流れ
感情および意欲/行動の低下. 前者にはセロトニン, 後者にはノルアドリナリンが関与するという説がある.

Mood Disorder〜感情障害と訳されているが, 本来の意味は情意(起こった出来事に対する感情的意味付け)に近い. 
この障害は心理学的には認知の歪みによるもので, これを是正する作用があるとされるSSRIや認知行動療法が治療上有効であるとする理論的支えになる.